さて、今回はLoLのゲーム内における「視認性」についてお話したいと思います。これは開発の現場で常に考慮されているものの、「エフェクトと実際の当たり判定が噛み合っていない」、あるいは「スキンが見分けにくい」といったような問題が発生したときにしか注目されない部分です。もちろん、こんな問題は起きないに越したことはありません。ですがアイテムやルーン、中立オブジェクトなどはもちろん、チャンピオンの数は150体を越え、スキンも1000種類以上を抱えている都合上、どうしても発生してしまいます。
とはいえ、まだ改善の余地があることも事実なので、特にここ数年はゲーム内での視認性向上にずっと注力してきました。これは各チャンピオンのビジュアルエフェクトや効果音のアップデートといった形で表に出てくることもありますが、開発段階からずっと考慮され続けている部分でもあります。そこで今回は、チャンピオンやスキンの「理想の見え方」についてお話しようと思います。
では最初に、私たちの目標をご説明しましょう。
視認性とはつまり「ゲーム内で起きていることの把握しやすさ、反応しやすさ」であると私たちは考えています。高い競技性を備えたLoLであればこそ、これはとても大事なことです。
目標は大きく分けて3つあります。
それでは楽しい部分…つまり視認性を念頭に置いたチャンピオンのデザイン手法の解説に移りましょう。
チャンピオンの視認性について考える上で、私たちが特に重視するのは「シルエット」と「スキル」の2点です。
LoLでチャンピオンを見分ける際、最も重要になる要素がこの「シルエット」です。シルエットとはつまりチャンピオンの形状、チャンピオンを真っ黒に塗った際に現れるカタチのことです。
良いシルエットの条件は、それぞれのチャンピオンの持つ最大の特徴が明確に表現されていることです。セナの銃やダイアナの月の刃、そしてユーミの…猫っぷり?などがそれに相当します。スキンを開発する際も、チャンピオンの最大の特徴である部分をいじるのはご法度です。
またシルエットについてはアニメーションも絡んでくるのですが、これについてはどちらかというと付加的な要素となります。例えばアイバーンのひょろ長い体型はそれだけで十分特徴的ですが、そこにあの風変わりな歩き方が加わることで、アイバーンであることがさらに把握しやすくなるのです
逆にリー・シンの場合、体型にあまり特徴がないため、そのシルエット要素の多くをアニメーションが担っています(スキンのデザインが厄介なことになる可能性はあるものの、この手法自体は問題ありません。これについてはまた後ほど)。
そして見分けやすさ以上に、シルエットはそのチャンピオンの攻撃方法を強調していなければなりません。これは特に、今から150体以上のチャンピオンの性能を覚えていくことになる新規プレイヤーにとって重要な部分です。もし弓を持ったキャラを見かけたら、それが遠くから弓矢で攻撃するキャラであることが推測できるはずです。杖を持っているキャラであれば、きっと魔法で攻撃してくるでしょう。そして膝にショットガンが付いているキャラなら、それを撃ってくる…かも?
またシルエットの大きさも、そのチャンピオンのプレイスタイルを示す要素となります。イカつい鎧を着込んだ立派な体躯のチャンピオンであれば、まずタンクかファイターでしょう。可愛らしい小柄なヨードルであれば、きっとそれとは違うはずです。
そして最後に、シルエットを見ただけでチャンピオンが向いている方向まで分かる必要があります。こっちに向かってきているのか、それとも離れていっているのか。姿を一目見ただけで、すぐに把握できなければいけません。
スに直結する部分でもあります。私たちはここ数年の間、現行のLoLの水準に追いつけていない一部の古株チャンピオンに関して、ビジュアルエフェクトをアップデートする作業を続けており、これは2021年も継続することになっています。今年はまずヘカリムからです。
スキルに関して言えば、当たり判定よりも前にまず「優先順位のルールを守ること(英語記事)」が重要になってきます。言い換えれば、「そのスキルの目を惹く度合いが、スキルそのものの重要度に見合っていなければならない」ということです。
スキルの重要度については様々な要素が絡んできます。例えば…
またスキルのオーディオ/ビジュアルデザインについては、優先順位の維持よりも先に踏まえておくべき、様々なゲームプレイ上の留意事項が存在します。興味のある方は以下のスライドショーからどうぞ!
スキルによって放たれる飛翔物は、(たとえ静止状態であっても)その進行方向が判別できるようにする必要があります。これにはエフェクトの後ろ側を「ぼかす」手法がよく使われます。
スキルについては使用するカラーパレットがある程度決まっており、それに従うことになっています。例えば回復スキルは安らぎを感じさせる金~緑色ですが…
…毒スキルの場合はもっと毒々しい緑~紫色の色相を使用します。
スキルはその形状にも「お約束」のパターンがあり、それに倣う必要があります。例えばノックアップスキルは縦方向への要素を強くし…
…スネア効果を持つスキルでは、足元の地面にパーティクルを発生させる手法がよく使われます。
そして、こういったお約束はオーディオ面にも存在します。スタンやスネアの場合であれば、効果時間の最初の部分にだけ鋭い音を入れる手法がよく使われます。
スキンの場合、視認性については「ベーススキンでの見分けやすさは維持しつつ、満足感のある差異を生み出すこと」が一番の課題となります。あまりやりすぎると視認性に悪影響が出てしまい、逆に控えめにしすぎると、今度はコンテンツとして物足りないものになってしまいます。
スキンの開発は、いわばアニメーションやビジュアルエフェクト、効果音などの様々な要素でバケツを満たしていくようなものです。内容物を溢れさせることなく、程よくバケツを満たすことが私たちの目標なのです。
バケツに注ぐ内容物の比率は、スキンごとに異なります。ビジュアルエフェクトや効果音に重きを置く場合であれば、モデルやアニメーションはベーススキンからあまり変えません。逆にアニメーションを完全に一新するのであれば、その他の要素を削ることになります。究極的には、スキンを使用した際もそのチャンピオンであることが常に一目瞭然であればいいのです。すべての要素をひたすら「盛って」しまうと、当然ながら視認性に大きな影響が出てしまうため、そういったことは絶対にしません。
「カッコよさ」と「分かりやすさ」の果てなき死闘について一通りご説明したところで、次はもっと細かい部分について見ていきましょう。
チャンピオンのシルエットは「第一」、「第二」、「第三」の要素で構成されています。各チャンピオンの第一要素は、どのスキンでも消したり、大きく変えたりしてはいけない部分です。つまりセナの銃を豆鉄砲に変えたり、ユーミを人間化したりは絶対にしない、ということです。
特に第一要素の印象が強い場合は、第二、第三要素についてはいくらか自由にできる余地が生まれます。「荒野のセナ」などは特に上手くいった例でしょう。身体のシルエットはベーススキンとはかけ離れているものの、代名詞とも言える銃が残っているため、一目見ただけでセナだと分かるようになっています。
シルエットの要素をアニメーションに依存しているチャンピオンの場合、レジェンダリー(またはアルティメット)スキンの開発は困難になります。というのもアニメーションの変更がシルエットに大きな影響を及ぼすため、バケツに注がれる内容がさらに増えてしまうのです。そこでさらに派手なビジュアルエフェクトや効果音を追加したり、モデルを改変したりしては、そのチャンピオンの個性は簡単に崩壊してしまうでしょう。これもまた、私たちがすべての新規チャンピオンにできるだけ強い第一要素を持たせようとしている理由のひとつです。
スキンのデザイン時には、ベーススキン状態でのスキルが視認性の目安となります。言い換えれば、スキンが課金有利の一因とならないためにも、すべてのスキルが少なくともベーススキンと同程度の視認性を備えていなくてはならない、ということです。ベーススキン状態と比べるとスキン使用時の方が多少スキルが見やすく感じられる、という場合もありますが、課金不利も避けるべきという点では一緒なので、ここでの目標はあくまで「ほぼ同等の視認性」です。
スキルについても優先順位を守り、また試合中に過剰なノイズを発生させないように気を配ります。「飾り付け」を増やすなら、何か意図がなくてはならない、ということですね。…と言ってはみたものの、この点については時々やりすぎてしまいます。開発中のスキンを最高のものにしようとするあまり、ついゲームプレイ上のノイズや優先順位との兼ね合いを損ねてしまうのです。
集団戦の大混乱の中でも見分けやすいスキルを備えた、満足感のあるスキンをリリースする。結局のところ、私たちの目標はこれに尽きます。それを踏まえた上で、視認性の観点から開発段階で修正を施した例をいくつかご紹介します。スライドショーでじっくりご覧ください。
当初「山海絵巻伝ジン」の「終演 -フィナーレ-」は発動後に境界線がフェードアウトするようになっており、相手は発動シークエンス中に範囲を見極めるしかありませんでした。そのため境界線を常に表示されるよう変更しました。
ザイラのアルティメットで表示される円は、ベーススキンでは発動後すぐに表示されますが、「盟約の魔女ザイラ」では徐々に表示されるようになっていました。ですので反応に要する時間を統一するため、「盟約の魔女」でもアルティメットの円がすぐ表示されるようにエフェクトを修正しました。
ブラッドミアのアルティメット発動時の円は、ベーススキンでは注意を引く鮮やかな赤ですが、「混沌の闇ブラッドミア」ではただのもやっとした円でした。彼のアルティメットはとても影響力が高いものなので、混戦の中でも目立つようにビジュアルエフェクトをもっと派手なものに変更しました。
「三国武神ガレン」の通常攻撃は当初あまりに色が明るく、また透明感も足りないものでした。これでは優先順位のルールを逸脱し、戦闘中に目立ちすぎてしまうことになります。そのため少し明るさを下げ、同時に透明度も上げることにしました。
「秩序の光ソラカ」のアルティメットは当初、天使のようなソラカの姿が回復効果を受ける味方全員の頭上に現れる、という演出になっていました。しかし、これも戦闘中の味方にとって(そして敵側にも)鬱陶しく感じられる可能性があったことから、演出が表示される対象をソラカ本人だけに変更しました。
最後に、いくつか残っている留意事項について、マップから見ていきましょう。ごく当たり前のことですが、すべてのスキンはどのマップでも明確に視認できなくてはいけません。これについては、私たちも完璧には遵守できていないのが現状なのですが、ここ最近ではスキンごとに全マップで確認作業を行い、ハウリングアビスの風景に溶け込んでしまった「フレヨルド タリヤ」と同じ轍を踏まないよう心がけています。
姿が大きく変わったり、一定時間変身したりする演出については、「ホームガード」発動中かパワーアップ中の使用にのみ留めておく。これはとても大事なことです。「精霊の花祭りアーリ」の変身が良い例でしょう。彼女が完全なキツネの姿に変身するのは「ホームガード」発動中だけ、半人半狐の姿に変身するのもアルティメット発動中だけに限定されています。
逆に「ソーラー/ルナーエクリプス
レオナ」のように、ほぼ永続的に変身させてしまうのは、今後は避けたいと考えています。というのも、このスキンのことをよく知らない人が光っているレオナを見ても、ただ姿が変わっただけなのか、それともQを発動してこれから盾で殴りに来るのか、一瞬では判断がつきにくいからです。
そして最後にリコールやダンス、挑発といった、いわば「動きだけ」の特殊なアニメーション類。これも大事な要素なので触れておきましょう。簡単に言うと、こういったアニメーションが競技上の有利を生まないように注意しなくてはいけません。そんなものは生まれようがないと思われるかもしれませんが、こういったアニメーションが(特に連打した際に)目障りになったり、チャンピオン本体の当たり判定が紛らわしくなったりしてしまう場合があるのです。
その典型例が「プールパーティ
レネクトン」です。このスキンでリコールを連打するのは確かに楽しいのですが、見ていて鬱陶しい上、当たり判定自体は一切変わらないまま、キャラクターモデルだけが上に移動してしまいます。結局「リコール時、チャンピオンは円形範囲内に最低2秒間は留まること」という厳格なルールが定められるに至りました。出来ることならずっと留めておきたい、と私たちも思ってはいるのですが…
今回のお話はここまでです!視認性を保つための苦心の数々に、いつか気付いていただければ幸いです。もしスキンやチャンピオンで、どのようにして視認性を確保したのか気になるものがあれば、こちらのフォームからお気軽にご質問ください。
長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。みんないい人ですね。それではまた!