ゲームアップデート
精霊の守護者ウディアのアップデート

「もうこれをベースにしよう」が「現代のアルティメットスキン」になるまで

ゲームアップデート作者RIOT CASHMIIR
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長い間、ウディアは“古いLoL”を具現化したような存在でした。時代遅れのグラフィック、シンプルなスキル、ローポリなゲームモデルなどなど、まだラプターがレイスだったり、バフにお友達がいたりした頃のサモナーズリフトを彷彿とさせる、生きた化石となっていたのです。そんな存在でありながら、ウディアはアルティメットスキンを持っています。

アルティメットスキンは「そのチャンピオンが成り得たかもしれないもうひとつの姿」を表現したスキンの中でも最高峰に位置するもので、その高いクオリティに比例して、大量の開発作業が必要となります。モデル、リグ、アニメーション、VFXなどをすべて新しく作るため、実質的には新しいチャンピオンをもう1体作るようなものなのです。

そういうわけで、この型切り替えポリゴンもりもり男がVGUの投票で選ばれた時、開発チームは精霊の守護者スキンをちらりと見て、心の中で「ちくしょう」とつぶやきました。

アイオニア式の調和

身体を機械化したサイバー人間や、アニメから飛び出してきたようなカワイイ高校生たちとは違い、精霊の守護者ウディアはベースのウディアと世界観を共有しています。両者の違いは、ベースのウディアはアイオニアを去ってフレヨルドへ戻ったのに対し、精霊の守護者ウディアはそのままアイオニアに残ることを選択したところにあります。

「精霊の守護者の物語については、VGUにあわせて書き直すのではなく、既存の物語を残しつつ、それをさらに広げたいと考えました」シニアナラティブライターのElyse “Riot apothecarie” Lemoineは説明します。「アイオニアに残り、フレヨルドには戻らなかった…その理由を深堀りすることにしたんです。何がウディアをそうさせたのか、セジュアニと交わした約束よりも大事なものとは一体何だったのか、自問自答を続けました」

その答えは、ヒラナの大修道院にありました。もっと具体的に言えば、そこにいる盲目の修行僧が持っていたのです。

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リー・シンとの修行を経て、ウディアは均衡のとれた静かなる精神を会得するに至ります。それはフレヨルドで過ごしていた頃にはまったく無縁だったものです。こうした経緯の末に、ウディアは長年の友人であり相棒でもあるリー・シンと共にアイオニアに残ることを決めました。

「アイオニアでは、霊的な均衡は調和と共生によってもたらされます。そして、土地によって均衡の表れ方は違うのだとウディアは気づきました」Riot apothecarieは続けます。「霊的世界と物質世界を繋ぐことがウディアの使命であり、そのためには両方の世界に調和と均衡をもたらす必要があります。スピリットウォーカーとして果たすべき役割や責任をより広い視点で捉えられるようになったウディアは、故郷へはまだ帰らないことに決めました。この選択は重い後悔となってウディアにのしかかりますが、アイオニアでの厳しい修行は、前へ進むための一歩でもあります」

こうして、ウディアは相棒のリー・シンと共にアイオニアに留まることとなりました。物語が出来上がったので、次はこれをもとにウディアに相応しい外見とはどんなものかを検討し、ゲーム内のビジュアルに落とし込んでいくことになります。

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シニアコンセプトアーティストのJustin “Riot Earp” Albersによると「VGU後のビジュアルを決めるにあたっては、やはりRiot apothecarieが辿り着いた物語の着地点を表現するような見た目にしたかったので、スキンを一から開発するのではなく、既存のビジュアルを現代風に作り変えることに集中しました」とのこと。

ベースのウディアのVGUと同様、新たな精霊の守護者スキンもより一層たくましい肉体を手に入れますが、両者の間には微妙な違いもあります。

「ベースのウディアのVGUと同じく、屈強な肉体を持っていることを表現するのはもちろん重要です。一方で、精霊の守護者ウディアはアイオニアでの修行によって自制心や精神の均衡を身に着けており、生き方そのものが異なるため、ビジュアルにもこれを反映させています。ベースのウディアに非常に似てはいますが、こっちはさらにメリハリの効いた見た目になっていますね」とRiot Earpは笑いながら語ります。

ですが、アイオニアでの修行がもたらしたものは、筋肉だけではないようです。

「精霊の守護者ウディアのビジュアル要素の多くは、レジェンド・オブ・ルーンテラのチームがまとめてくれていた、アイオニアの世界設定資料がベースになっています。アイオニアの建築様式や衣服に施された意匠、果てはカリグラフィーの記号や文字まで、あらゆるものをシェイプランゲージ(形態言語)の参考にさせてもらいました」VFXアーティストのLuis “Riot Bloois” Aguasは語ります。「そういったアイオニア的デザインを、ベースのウディアが持っているフレヨルドの半神たちのデザインと掛け合わせてみようと思ったんです。精霊の守護者ウディアはアイオニアとフレヨルド、二つの要素が交じり合った存在ですから」

こうして精霊の守護者ウディアの土台はうまく固まっていきましたが、まだひとつだけ問題が残っていました。ウディアはVGUを経て、以前の型を綺麗さっぱり捨て去ってしまったのです。精霊の守護者ウディアもベースと同じフレヨルドの精霊たちをアイオニアまで呼びつけるのか、はたまたアイオニアで別の精霊を見つけて新たな旅の導き手とするのか…このスキンに相応しい着地点は一体どこになるのでしょうか。

精霊たちとの調和

「精霊の守護者のVGUでは、オリジナルの動物の精霊たちを残すことにしました。こうすることで、昔からのウディアをプレイしてくれている人たちへの恩返しにもなると考えたからです。オリジナルの精霊たちを尊重したいという想いからこうしたわけですが、アイオニアの雰囲気にもうまくマッチしていると思います」とRiot Earpは説明します。

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熊と虎は、VGU後のベースウディアのビジュアルにあわせて色が入れ替えています

精霊の守護者ウディアがアイオニアに残ることを決断した理由の一つは、ウディアがアイオニアの精霊たちの中に見出した平穏にあります。

「ベースのウディアと精霊の守護者ウディアの最も大きな違いの一つは、精霊との関係性です。ベースのウディアは少しだけ対立的な関係であるのに対し、精霊の守護者ウディアはより精霊と一体となった、共生と呼べるような関係を築いているんです」Riot apothecarieは説明します。「精霊の守護者ウディアは、それぞれの精霊と一対一の関係を結んでいます。精霊ごとに異なる気性や性質をきちんと理解して、お互いに尊敬と思いやりを持っている。精霊の守護者ウディアにとって、アイオニアの精霊をその身に宿すことは、彼らと共に歩むことを意味します。ふたつの魂が重なり合い、ひとつとなっているのです」

開発チームは、この共生関係をビジュアル的な一体感として表現しようと試みたのです。

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「これを考える中で、精霊が常にウディアに張り付き、ウディアの動きにあわせて精霊も動く…というアイデアを出しました。なかなかカッコよかったのですが、動きがものすごく早くて忙しない感じになってしまったんです」当時を振り返りながら、Riot Blooisは語ります。「結局、このアイデアは採用しませんでした。画面に映るウディアの割合が少なく、ウディア本人よりも精霊の方がメインに見えてしまったからです。というわけで、別の表現方法を探り始めました」

ここでチームが注目したのは、型の真の力を引き出す「覚醒」という部分。これを可能な限り魅力的に表現するにはどうすればよいか考えました。

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VGU後のウディアのスキルセットでは、精霊の力を覚醒させることでそれぞれの精霊の力を解き放ち、その能力を強化することができます。ウディアが型を覚醒させると、その型に応じた精霊が顕現するのです。

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「亀の型は特に難しかったですね。私の中では、ウディアは山奥で暮らす大男というイメージが強かったんですが、精霊の守護者には一種の優美さが感じられる。これはベースのウディアにはないものですから」シニアアニメーターのEric “FattyLeesPlease” Leesは語ります。「覚醒時のモーションは、とにかくものすごいスピードなんです。Riot Blooisが手掛けてくれたVFXは、明瞭明快で素晴らしい出来でしたが、精霊が出てくるモーションは10フレームくらいに収める必要がありました。亀の型は頑強な守りの型である一方、その中にはやはり調和がある。さまざまな制約の中でできることは限られていましたが、そういった亀の精霊の特徴や気質をうまく表現した、魅力的なモーションになっていることを願います」

覚醒によって進化する型だけでなく、装備品にも注目しました。

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「人間の腕に精霊を纏わせるベースのウディアとの差を出すために、リワーク前のウディアが使っていた武具を引き継ぐことにしたんです」Riot Earpは説明します。「精霊の守護者ウディアは、虎の型では精霊の爪を、亀の型では甲羅を模した甲冑を、熊の型では黄金の肩当を、不死鳥の型では燃え盛る手甲を身に付けます。型を覚醒させると、これらの装備品の見た目もより強そうなものになるわけです」

28Mbの壁

ウディアはあらゆる意味で大きな男です。人間性、精神性、そしてサイズ。ここでいうサイズとは、見た目の大きさだけでなく、データの大きさも意味します。LoLは低スペックなPCでもプレイできる必要があり、実際に多くのプレイヤーが32bitのプロセッサでしかLoLをプレイできない環境にあります。そのため、精霊の守護者ウディアの真価を引き出す方法を考えることは、メモリ使用量の制約との戦いでもあったのです。

「LoL上で動作するものにはすべて、それぞれが使用できるメモリ容量の上限が決められています。チャンピオン、スキン、エモートはもちろん、マップに至るまで、あらゆるものがこの対象です。各チャンピオンに割り当てられたメモリ容量は20Mbで、エピックスキンなら25~26Mb、レジェンダリースキンなら26~27Mb、そしてアルティメットスキンなら最大28Mbまでメモリを使用できます」Dawon “Riot WONY” Leeは解説します。「メモリの制限内に収めるために、出てきたコンセプトやアイデアを没にすることも珍しくありません。ただ、精霊の守護者はアルティメットスキンですので、やはりプレイヤーの皆さんにこれまでにない体験を届けたいという思いがありました。なので、可能な限りでさまざまなアイデアを入れ、それを実現するために他の部分でメモリ使用量を削れないか色々試してみたんです。

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開発中、精霊の守護者ウディアのメモリ使用量は上限の28Mbを大きく上回る50Mb近くまで膨れ上がった

通常時、スキルレベル最大時、覚醒時それぞれの型と精霊、身に纏う武具、エモート、そして太くたくましいボディ…膨れ上がるコストを抑える方法を見つけることは、アルティメットスキンに相応しいクオリティの実現するにあたって避けては通れない道でした。

これに対する答えのひとつとして、リグとモデルの再利用が行われます。

「香港のクリエイティブスタジオと緊密に連携し、モデリングリソースを効率的に活用できるよう努めました」3DキャラクターアーティストのJason “00Y00” Namgungは語ります。「型ごとに通常時、スキルレベル最大時、覚醒時の3つのパターンがありますが、このそれぞれに別々のモデルを持たせるのを避けるため、しっかりと構想を練り、計画を立てました。これに加えて試合の開始時はどの精霊も宿していない素のウディアもあるわけですが、これら一つひとつに別々のモデルを使っていたら、データ容量はあっという間に膨れ上がってしまいます」

可能な限りリソースを再利用できるように、チームはウディアの型の進化を「置き換え」ではなく「付け足し」で処理するような形で開発を進めていきました。つまり、一つの型で使用するモデルは一つだけで、段階に応じてモデルの部品やビジュアルエフェクトを付け足していくことで、見た目の差を出すことにしたのです。

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こうした工夫の結果、メモリ使用量は制限範囲内に収まった

「メモリの話で言うと、精霊たちにはみんな同じリグを使っていて、ボーンやジョイントの総数を削減しているんですよ」Riot WONYが付け加えます。「もちろん、アニメーションや外見は精霊ごとにハッキリとした違いがありますが、そのベースとなっているモデルはみんな一緒なんです。あとは、髪の毛のテクスチャも容量削減の対象でしたね。テクスチャファイルは特に容量が大きくなりがちなので、できるだけシンプルなものになるよう気をつけました」

そう、いよいよ髪型の話です。精霊の守護者ウディアのポニーテールが気になっていた人も多いのではないでしょうか。

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「ウディアのポニーテールについては…意見が激しく分かれるところですよね」Riot Earpは笑いながら語ります。「すごく好きな人もいれば、すごく嫌いな人もいる。ただ、ポニーテールは容量の関係で必要なものでもあったんです。あとは覚醒時の変化を際立たせるために、基本の髪型はシンプルにしたかったというのもあります。そういう事情もあって、最終的にポニーテールが採用されました」

「精霊の守護者ウディアは優雅で洗練された雰囲気を持っているので、キャラクター的にも合っているなと感じています。目が隠れるような無造作な髪型では、この雰囲気は出せなかったと思います」とFattyLeesPlease。

「そうですね。それに、アイオニアのチャンピオンはポニーテールが好きですし。リー・シンもヤスオも」とRiot Bloois。

「ポニーテールもいいですが、私は亀の型の三つ編みがすごく気に入っています。アイオニアの精霊たちがやってる美容院があったらいいのに」と笑いながらRiot apothecarie。



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