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ニーコの中規模アップデートをめぐる物語

ニーコがどのようにして、どことなくトリッキーなトマトから、LoLで最もトリッキーなトマトに変身したのか見ていきましょう。

Dev作者Riot Phlox, Riot GalaxySmash
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皆さん、こんにちは!ニーコの中規模アップデートを担当した、ゲームデザイナーのEzra “Riot Phlox” LynnとQAエンジニアのRiot GalaxySmashです。今回はニーコ開発の舞台裏について、皆さんにお話ししたいと思います。

ニーコの中規模アップデートはリリースされるまでに長い時間がかかってしまいましたが、その(大きな)理由の一つが新しい固有スキルと、それに付随するバグでした。とはいえ、今日お話ししたいのはバグのことではなく、ニーコについてです。それではさっそく、ニーコの中規模アップデートをめぐる物語について見ていきましょう。

それは夢の中でやってきた

Riot Phlox

昨年の初め頃、私はニーコについて考えていました。風変わりなカメレオン少女である彼女は、LoLをプレイしていない人にはとても受けが良かったのですが、ごく一部のハードコアなニーコメインを除いて、LoLプレイヤーにはまるで人気がなかったのです。基本的に、チャンピオンの人気はゲームプレイの人気に比例するのですが、ニーコは違いました。これは挑戦しがいのある問題でしたが、私は他にもやるべきことがありましたし、具体的な解決策も思いつきませんでした。ただ、ニーコの「トリックスター」というテーマが十分に表現されていないということだけは明白でした。

そこで私は、ニーコをLoL随一のトリックスターにしたいと考えました。しかし、ゲームデザインの観点から言って、「相手を騙す」というコンセプトは非常に風変わりなものです。たとえば、「擬態中に攻撃を命中させるとダメージが強化される」といったメカニクスのボーナスなら、容易に実装できます。ですがこの場合、ニーコは「敵を騙すために擬態する」のではなく、「敵に追加ダメージを与えるために擬態する」ことになってしまいます。結局、良いアイデアが思い浮かばなかったので、彼女のことはしばらく封印しておくことにしました。

それから数週間後の深夜(エイプリルフールの少し前)、私はとあるアイデアと共に汗まみれで目を覚ましました──「もしニーコが、何にでも擬態できるとしたらどうだろう?」

馬鹿げたアイデアだと思いつつも、私はそれをメモして再び眠りにつきました。次の日、目を覚ました私は「Neekp(※原文ママ)が何にでも擬態できる」と書かれたメモを見つけました。

朝の私は、午前3時の寝ぼけた私の意見に同意しました。ニーコは何にだって擬態できるべきです。

このキャラクターに秘められた大きな可能性──今回の中規模アップデートはまさにそこから始まりました。たとえ今は違くとも、ニーコを真のトリックスターとして生まれ変わらせることは、不可能ではないはずです。

ゲームデザインこそ我が人生

Riot Phlox

ゲームデザインをしていて最も楽しいことの一つは、自分のアイデアが実際にプレイ可能になることです。しかし、これは最も大変なことでもあります。ニーコの最初期のプロトタイプはひどいもので、下手をすれば過去最悪だったかもしれません。なにせ、ほとんど機能していなかったのです。

ワードの破片やジャーヴァンの旗、シンドラのオーブ、クレッドのRなど…ニーコは様々な対象指定不可ユニットに擬態でき、ゲームプレイが成立しませんでした。彼女がすでに倒されているユニットに擬態した場合、そのユニットは「ガベージコレクター」で掃除されました──つまり、擬態のビジュアルエフェクトが再生され、そのユニットのステータスも引き継げますが、見た目はニーコのままになるのです。問題は多かったものの、とても楽しかったのも事実です。「これこそ、ニーコで目指すべき方向性…のはず!」だと感じました。少なくとも、試してみる価値はあったのです。

2022年のエイプリルフールで、ランダムなユニットになれたことを覚えていますか?何とあれは、ニーコの固有スキルのテストであり、このような擬態に対する皆さんの反応を確認するためのものだったのです!そして私たちと同じくらい、皆さんにも好評だったので、どこまでやれるのか試してみることにしました。

以前の固有スキルはかなり制限が厳しく、クールダウンが長いうえに、ちょっとしたダメージで解除されてしまうため、ほとんど役に立ちませんでした。そこで、真に必要なものは何なのか見極めるべく、ほぼすべてのルールを排除してみることにしました。そして最終的に、彼女のトリッキーさを維持するため、これらのルールをほぼすべて廃止することにしました。ダメージを受けただけでバレてしまっては、トリックスターとは到底呼べません。ニーコがケイトリンの通常攻撃を14回タンクしたいなら、そうさせるべきなのです!たとえ代償が高くつくとしても、それはまた別の話です。

この時点で、彼女の固有スキルはエンジニアに委ねられ、私はスキルセットの残りの部分に取りかかることになりました。この固有スキルを実現してくれたエンジニアの皆さんには、本当に感謝しています。私のアイデアを機能させるには、かなりのエンジニアリング作業が必要となったはずですから(Riot Kïpp、ありがとう!)。

ニーコのQとEは、メイジにぴったりの楽しいスキルでしたが、Wは真のトリックスターに相応しいスキルとは呼べず、改善の余地がありました。

クローンで敵を騙せることもなくはなかったのですが、ほとんどの場合は自分で戦う必要がありました。最初に試してみたのは、動きをミラーさせることでした。つまり、あなたが動くと、それに合わせてクローンが真逆の方向に動くのです。私は高校時代に習ったベクトルの微分積分に関する知識を掘り返し、何とか自分で動かしてみようとしましたが、残念ながら上手くいきませんでした(良い子の皆は、学校でちゃんと勉強しましょうね)。そこで別のエンジニア(サモナーズリフトの技術リードであるChris “Riot Chris Woods” Woods)とゲームアナリシスチームのメンバー(QAリードのDave “Riot Weeknd” Park)を呼んで、数学の部分を手伝ってもらいました。

しかし残念ながら、クローンのミラー動作は(まったく)上手くいきませんでした。とはいえ、逆方向の動きをヴェル=コズのように計算しながらプレイするのは、とてもヘンテコで面白かったですし、「リアルな動きをするクローンなら、敵を騙すことができる」と分かっただけでも、このテストには価値がありました。

狂気のシャコメインでもある私が次に考えたこと…それは「クローンを自由に操作できたらどうだろう?」でした。そして、それは現実となりました。かなり上手く機能していたと思います。ニーコのクローンを自由に移動させることが可能となり、あとはIQ 200の頭脳さえあれば(または、私のように200年を超えるデザイン経験があれば)、敵を騙してミスを誘うことができるようになったのです。

その後はこのテーマを洗練させていき、リコールするクローンをおとりにしたり、敵に向かって一緒にダンスしたりといったプレイを可能にしていきました。ニーコは最高にトリッキーなチャンピオンであるべきであり、それがついに実現したのです。

ニーコのパズルを埋める最後のピースはアルティメットスキルでした。はっきり言って、元のアルティメットは敵からすると対抗策が山ほどありました。LoLにおいて対抗策を奪うような変更はできるだけしないようにしていますが、このスキルは例外です…ランダムミッドで雪玉と組み合わせてペンタキルを奪う以外に、ニーコのアルティメットで爽快な気分になれたことが過去に一度でもあったでしょうか?アルティメットを詠唱しながらフラッシュで壁を越えたのに、敵の二人にはフラッシュで、もう一人には歩いて逃げられ、自分の「ゾーニャの砂時計」はクールダウン中…後はなすすべもなく倒されてしまったなんて経験はありませんか?このスキルはとにかく当てづらく、ニーコに対して有利に働くことがありませんでした。

そこで私は、ノックアップの導入について考えてみました。この効果なら、発動時のアニメーションにもぴったり合います。ただ、変更後もこのスキルには1.5秒間の詠唱時間があり、耐久力の低いニーコを近接攻撃の射程まで接近させる必要がありました。ノックアップの導入は大幅な改善につながり、アルティメットスキルとして悪くないレベルになりましたが、私はこれで満足しませんでした。さらなる可能性を追求したかったのです。

私がテストした様々なメカニクスの内の一つに、「アルティメットスキル命中時に、本体と逆に動く4体のクローンが出現する」というものがあります(見たことがある方もいるかもしれません)。このメカニクスは「プレイヤーを欺く」という意味では、確かに成功でした…忙しい集団戦の場面でさらにニーコたちが出現するわけですから、何が起こっているのか把握できるはずがありません。

これ以外にも、ニーコがインビジブル状態になるものや、敵も味方も関係なく、範囲内の誰かにランダムで擬態するというものも試してみました。しかし、色々と試せば試すほど、このスキルにトリックは必要ないと感じるようになりました。Wと固有スキルへの変更だけで、トリックは十分だったのです。

これでアップデートは完成!…とはいきませんでした。バグを見つけて、修正する必要があったのです。


(トリッキーな)トマトにはアリが寄ってくる

Riot GalaxySmash

ニーコの開発から一つ学んだことがあります。「彼女は間違いなくトマトだ」ということです。これは、彼女が自分のことをそう呼んでいるからではありません──多くのバグ(虫)を引き寄せるからです。バグは決して(特に中規模アップデートでは)珍しいものではありませんが、ニーコの場合は別格です。

ニーコの変更内容は非常に独特であり、一見すると単純そうに見えますが、技術的にこれを可能にしようとすると、大量のバグが発生する可能性があったのです。良いニュースとして、これらのバグの大半は笑えるものでした。そして悪いニュースは…これらのバグがランク戦で発生したら、試合を壊しかねないということです。

言うまでもないことですが、(ほぼ)何にでも擬態できるとなると、予想外の副作用が発生します。Riot Phloxが言ったように、ニーコはワードの破片や透明のミニオン、誰も知らない古いレガシーミニオンなど、私たちの予想を遥かに超える意外なものに変身しました。

なぜそのようなことが起きるのか理解するには、LoLの技術的な仕組みについて、ある程度の知識が必要になりますが、簡単に言うと「LoLの大半はミニオンでできている」ことが理由です。この事実はかなり有名ではありますが、初めて聞いた人は「ミッドレーンを進んでいくおチビちゃんたちを、私たちが何かに変身させている」とイメージすることかと思います。ですが、厳密にはそうではありません。

ここで言う「ミニオン」とは、基本的にはユニットのことであり、私たちが様々なものをビルドする際に用いる基礎となります。この「ミニオン」のプロパティを変化させることで、私たちは欲しいものを自由に創り出すことができます。しかし時々、これらのプロパティが間違っているせいで、ナーがダイアナのQにEを使ってジャンプしたり、ジャングルクリア中におすすめのジャングルルートがモンスターの動きをブロックしたりと、おかしなバグが発生します。LoLがこうした作りになっている理由ですが、この方法だとゲームの一貫性を保ちやすく、開発者が何かを制作する際、作業を簡略化することができるのです。

話をまとめると、ニーコが何にでも擬態できるよう最初の変更を行った際、擬態の対象には「ミニオン」も含まれていました。これは自分の身を挺してあなたを守ってくれるおチビちゃんたちのことではなく、LoLの基礎となっている透明のミニオンのことです。それを考えると、ニーコを「あらゆる虫が寄ってくる有機トマト」から、「虫に対する耐性が付いた遺伝子組み換えトマト」に作り変えるまでに、どれだけのバグと遭遇することになるか、想像がつくのではないかと思います。

大混乱を巻き起こそう

Riot Phlox

最後までお読みいただき、ありがとうございました。皆さんにニーコの新たなゲームプレイをお楽しみいただければ幸いです!これから皆さんがどのようなトリックを見せてくれるのか、今から楽しみで仕方がありません。不思議のカメレオンとなって、大混乱を引き起こしてやりましょう!

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